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2009年5月 5日 (火)

氷の伯爵と桜色の風 ♯5

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院長から両親の事を聞かされて数日が経ったが、戸惑いが消える事はなく、結局なにも変わらないまま、カンター男爵夫妻との対面の日を迎える事となった。
男爵夫妻は、昼過ぎには到着予定と聞いていたが、アンナは朝から落ち着かない様子で、部屋の中をウロウロと歩き回っている。
「あ~っ! もう、私らしくない! もう考えるのはやめた!」
アンナは何かを吹っ切るように、ベットに身体を投げ出す。
 うん、そうよ。
 私って、あり得ないくらい強運って事よね。
そう開き直る事にした。
元々、アンナは物事を深く考えない性格だ。
 ドアを叩く音にベットから降りると、シスターが顔を覗かせる。
「男爵様がお見えになったわよ。支度はできたの?」
「出来てるわ。って言っても、荷物なんてほとんどないんだけどね」
 アンナの足元には、小さなカバンが一つ。
手鏡とクシ、最低限の着替えと寝巻き、それとシスターが読み書きの勉強にと、12歳の誕生日にくれた本が一冊。
あとは、お守り代わりの白いハンカチが一枚。
それが彼女の全財産だった。
後のものは、少しでも役に立てばという思いと、自分の事を忘れないでいてほしいという願いを込めて、幼い子供達に残していく事にした。
「シスター、私もう行くね」 
「元気でね……」
少し寂しそうな笑顔でそう言った彼女の表情に、もうここには戻ってこられないんだと思うと、熱いものが込み上げてきそうになる。
後ろ髪を惹かれる思いで背を向ける。
振り返ってしまえば、「私はずっとここにいたい!」とすがり付き、泣いてしまいそうだった。
 あちらこちらに、思い出の欠片を見つける事が出来る。
ドアについた小さな傷や、いつもみんなを怒鳴りながら駆けずり回った廊下。
目に焼き付けるように、ゆっくりと歩を進める。
 私も小さい頃は、良く孤児院を抜け出して、シスターや院長先生を困らせたっけ……
ふと、立ち止まって窓の外を見ると、天使のような男の子と出会った幼き日の思い出が蘇った。
あの大きな木が、見守るように立っているのが見えたのだ。
 あの子は今、どこで何をしてるのかな……
そっとカバンの上から、あのハンカチに手を当て、前を向き歩き出す。
 院長室の扉の前で、一度深呼吸をしてから、思い切ってノックする。
「アンナです」
「どうぞ、お入りなさい」
静かに扉を開けると、院長先生の前には仕立てのいい服に身を包んだ紳士と淑女が座っていた。
 すごく綺麗で、素敵なドレス!
 あれってきっと、高いんだよね?きっと……
 さすが、貴族の方は着ているものにも気を使ってるのね。
思わず今の状況とは、ずれている事を考えてしまう。
「アンナ?どうかしましたか?」
そう言われて我に返り、慌てて会釈をする。
 いけないっ。そんな事を考えている場合じゃなかったわね。
すぐに反省し、改めてカンター男爵夫妻に意識を向けると、どこか自分に似た感じのする夫人に気が付いた。
「アンナ……あなたなのね?」
夫人は、そう言うと同時にアンナに駆け寄り、手を握りしめてきた。
近くで見ると、ますますアンナと良く似た顔立ちをしている。
「お……かあ、さま……?」
そんな夫人に、思わず口から言葉がこぼれる。
 あ……いきなりお母様はまずかったかな……?
自分で言ってしまった言葉に、少々後悔しながら婦人のほうに視線を向けると
彼女は喜びのあまり目にいっぱいの涙を浮かべていた。
「まだ、無理にそう呼ばなくてもいいのよ?」
14年という歳月が、そう簡単に埋まるものではないと理解しているのだろう。
夫人の優しい気遣いに、アンナの心の中に温かいものが流れ込んでくる。
正直、両親と言われても実感がないのは事実だけど、この人達が本当に自分を望んでくれている事は伝わってきた。
アンナは、それだけで十分すぎるほどに幸せな気分になった。
 これが、家族の温もりなのね。
 すごく優しそうな母さまと父さまでよかった。
優しい男爵夫妻に会って、アンナは今までの不安がゆっくりと和らいでいく事を感じていた。
「ああ、神様感謝します。再び生きて巡り合うことが出来るなんて……」
夫人は、それ以上は声にならない様子で、アンナを愛しそうに見つめている。
「アンナ、良く無事でいてくれたね」
カンター男爵も、そっとアンナの肩に手を置き、感慨深い様子で見つめていた。 
 アンナの中で、長い冬が終わり、雪解けの春が訪れたのだった。  続く

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