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2009年5月 5日 (火)

氷の伯爵と桜色の風 ♯6

☆もくじへ☆

 迎えの馬車に揺られ、男爵邸に向かう道中は、アンナにとって驚きの連続だった。
まず、馬車の絢爛豪華なことといったら!
アンナが知る、どの言葉でも形容できないほどだった。
 世の中にはこんな世界もあったのね……
自分がその世界に、足を踏み入れた実感はまったくない。
途中、カンター男爵夫人が「あれは……なのよ」とか「あちらに行くと……伯爵邸なのよ」
など、色々と説明をしてくれて、アンナは笑顔でそれに答えるが、実は半分も理解できずにいるのは言うまでもない。
 私、これからちゃんとやっていけるのかな……?
 きっと、なんとかなる! うんそうよ。
アンナは持ち前の明るさと、前向きな思考でそう思っていた。
「そうそう、アンナ。あなたに伝えなくてはいけない事があるの」
突然夫人が、思い出したようにそう言う。
「実はね、記憶に無いと思うけれど、あなたには一つ違いの妹がいるのよ」
予想外の言葉に驚きを隠せないでいるアンナに、夫人はこう付け加えた。
「大丈夫よ。あなたに会える日を心待ちにしていたから、とっても喜ぶわ」
「妹っ!? 私に妹がいるの? きゃー! 嬉しいっ! ずっと妹が欲しかったのー!!」
「アンナ、喜んでくれて嬉しいわ。でも、レディがそんな大きな声を出したらはしたないですよ?」
そうたしなめる夫人の顔は穏やかで、母としての優しさに満ち溢れていた。
「いっけない、これからは気をつけます。お母様」
アンナの心は、期待で満ち溢れていた。
そんなアンナの期待を乗せて、馬車は屋敷を目指し進んでいく。
 まさかこのあと、天使の笑顔を持つ悪魔と対面する事になろうとは、この時はまだ知る由も無かった……

 しばらく馬車に揺られ、田園風景を抜けると、男爵邸に到着した。
馬車が門扉をくぐりぬけると、目の前にある噴水からは水がキラキラと溢れ出していて、その周りでは美しい花々が競い合うように咲き乱れていた。
 こんな世界が本当にあるなんて、信じられない!
 妖精でも出てきそうな雰囲気ね。
アンナは、これからここで自分が生活をしていくなんて夢のようだと思った。
美しい石畳を進んで行くと、やっと玄関の扉が見えてくる。
 門から玄関までだけで、孤児院より広いわね……
そんな事を思いながら玄関ポーチに目をやると、扉の前には使用人らしき人達が、一列に並んで到着を待っていた。
馬車が止まると、黒服の初老の男性が近づき、馬車のドアを開けてくれた。
 なんか本当にお嬢様になった気分だわ。
実際、今日からはこのパーシヴァル家の令嬢として過ごしていくのだが、アンナにはまったく実感が無い。
ただただ、素晴らしく広くて美しい邸宅に、タメ息が出る思いだった。
「こんにちは。今日からお世話になります、アンナです。よろしくお願いします」
馬車を降りて、深々と頭を下げて言ったアンナに、傍に控えていた使用人達は、驚いている。
その様子を見た男爵夫妻は、一瞬固まった。
 ん?私、何か変な事を言ったかな?
「ア、アンナ、執事のギルバートに、あなたの部屋を案内させるから、着替えてきたら?」
慌てたように夫人がそう言うと、ギルバートと呼ばれた初老の男性は、無表情のまま頷き、アンナの方に向き直った。
「アンナお嬢様、ご案内致しますので、こちらへ」
そう言って歩き出したギルバートの後をついてアンナも歩き出すと、後ろでメイド姿の女性達がコソコソと何か話しているのが聞こえた。
「……って……よね……」
彼女達からは距離があり、会話の内容までは聞こえなかったが、あまり良い印象は受けなかった。
 何よ、感じ悪いなぁ、言いたい事があるならはっきり言えばいいのに。
 ただ今日からお世話になります。って挨拶しただけじゃない……何か変だったのかな?
 そうだ、ギルバートさん、だっけ。この人に聞いたら何か教えてくれるかもしれない。
アンナは、階段を昇るギルバートの背中に声をかけた。
「ねえ、ギルバートさん」
「はい、なんでございますか?」
「さっきの事、なんだけど……? 私、何か変な事言ったのかな?」
ギルバートは、アンナの言葉に一瞬足を止めるが、また歩き出す。
「こちらが、アンナお嬢様のお部屋になります」
事務的にそう言い、荷物を置くと自分の役目はここまでだ、と言わんばかりに部屋を出て行こうとするギルバートを、アンナが呼び止める。
「ちょっと! ギルバートさん。さっきの答え、まだ聞いてないんだけど?」
アンナに呼び止められ、振り向いた彼の表情からは、感情を読み取る事は出来ない。
「それでは言わせて頂きます。一般的に貴族の方が、身分の低い使用人と直接お話をされる事は、まず有り得ません。
アンナお嬢様は、直接お声を掛けられた上に、お辞儀までなさった。ですから、使用人達が驚いても仕方の無い事かと」
「でも、あなたは男爵夫人にも、直接声をかけられていたじゃない?」
アンナの言葉に、今まで感情を表に出す事のなかった彼の表情が、初めてピクリと動いた。
ように思ったのもつかの間で、またすぐに元の彼の表情へと戻って言った。
「お言葉ですが、お嬢様。私は執事ですので、他の使用人とは違うのです」
どうやら彼のプライドを傷つけたようだったが、アンナには執事と使用人がどれほど違うのか、なんて理解できなかった。
でも、自分のした事は男爵令嬢としては大失敗だったんだ。という事は理解して、素直に謝ることにした。
「そう、なの……貴族社会も大変なのね。その、ごめんなさい。私ってば、無神経な行動を取ってしまったみたいで……」
「いいえ。アンナお嬢様が特殊な環境でお育ちになった事は、旦那様から伺っておりますので、お気になさらないで下さい」
 特殊な環境って……なんか、見下されてる気がするのは気のせい?
 そういえば、さっきのメイドさん達も、そんな感じだったのかも……
そこまで思うと、この先の事が一気に不安に思えてくる。
「では、私は失礼致します」
ギルバートは、今度こそ自分の役目は終わったという感じで、部屋から出て行った。 続く

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コメント

コメあり^^
順調じゃないよぉ
なんとかここまで来たって感じです

投稿: かえで | 2009年5月 6日 (水) 14時31分

読んだよ~ん
順調のようで・・・

投稿: みつたん | 2009年5月 5日 (火) 22時10分

この記事へのコメントは終了しました。

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