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2009年5月10日 (日)

氷の伯爵と桜色の風 ♯8

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リリスに案内され到着したのは、一階にある重厚な扉のダイニングルームだった。
「失礼致します。アンナお嬢様がお見えになりました」
リリスがそう声をかけて扉を開くと、その部屋の豪華さに思わず息を呑んだ。
天井部分には天使の絵が描かれ、豪華なシャンデリアが下げられていて、品の良い調度品が壁際のチェストの上に飾られている。
「やあ、アンナ。見違えたね」
奥に座っていたお父様が、腰を上げてそう言った。
「こんなに素敵なドレスを、ありがとうございます」
私はかなり緊張していた。
目の前には、噂の妹、パトリシアが座っていたのだ。
お父様は私の言葉に、穏やかな微笑を浮かべて、席までエスコートしてくれる。
「アンナ、紹介するよ。私のもう一人の娘、パトリシアだ」
そう紹介された少女は、優雅にその場に立ち、ドレスの裾をそっと掴んで挨拶をしてくれた。
 なんて優雅な立ち振る舞い……
アンナは思った以上に、可憐で美しい妹に軽い感動を覚えた。
「あなたがパトリシアね! お母様からあなたの事を聞いてから、早く会いたくて、ウズウズしてたの!」
私の言葉に、パトリシアは心底嬉しそうな顔をしている。
「私もお会いしたかったわ、アンナお姉様。私の事はパティって呼んでくださいね?」
小柄で華奢な彼女は、そう言って、ふんわりと抱きついてきた。
 なんて綺麗な子だろう……
 まるでお人形さんみたい。
美しい栗色の髪に青碧の瞳を持つ妹は、本当に愛くるしい笑顔で、こちらをじっと見つめている。
「ありがとう、パティ。あなたみたいに可愛い妹がいてくれた事、本当に嬉しいわ。これから仲良くしようね」
私が、また大きな声をだしてパティを驚かせないように、出来る限り穏やかに言うと、その様子を夫妻も満足げに眺めている。
和やかな雰囲気のまま、楽しい夕食が始まる。
「そうだアンナ、1週間後に君のお披露目をしようと思うのだが」
嬉しそうに目尻を下げながら、お父様がそう言った。
「お披露目? 何をするの?」
「お客様をお招きして、晩餐会を開こうと思っているんだ」
 晩餐会……食事会みたいなものかな?
いまいちイメージが掴めないでいるアンナは、そんな風に気軽に考えているのだった。
「まぁ、素敵! ドレスを新調しなくてはね、アンナお姉様」
パティが青碧の瞳を輝かせて、うっとりした表情でそう言った。
「そうなの? 部屋にもたくさんのドレスがあったし、私はあの中の一着で十分よ?」
「まぁ、アンナお姉様って、楽しい事を仰るのね」
パティにふふふっと笑われて、またおかしな事を言ってしまったんだ、と気が付いて赤面する。
「パティ、アンナはまだ、この生活に不慣れなのだから、あなたがそんな事を言ってはダメでしょう?」
そうお母様にたしなめられて、パティは俯いてしまった。
「お母様、私が変な事を言ってしまったんだから、パティを責めないで」
可愛い妹が、自分のせいで怒られたみたいで、嫌だった。
 これから、一週間、パティに色々教えてもらわなきゃね。
その時、パティが口惜しいそうに表情を一瞬歪めた事に、誰も気が付かなかった。
 楽しい夕食の時間も終わりに近づき、後はデザートを待つばかりだった。
「パティ、アンナ。あとは二人でゆっくりと、シェフご自慢のデザートを召し上がってちょうだい」
運命的にまた巡り合った姉妹に、二人で積もる話もあるだろうからと、気を利かせたお父様とお母様は私とパティを残して、自室へと戻って行った。
「ねえパティ、デザートは何だろうね? 楽しみだね」
「……」
「パティ? どうしたの? どこか具合でも悪くなった?」
急に黙ってしまったパティが心配で、何度も声をかけるが、やっぱり反応は無い。
「ねえ…」
「気軽に、話しかけないで下さらない?」
私の言葉を遮った彼女の言葉に耳を疑う。
 え……? 
 今の、パティが言ったの?
 もちろん、今この部屋にいるのはパティと二人だけなのだから、彼女以外はあり得ないんだけど……
すぐには信じ難かった。
「田舎訛りがきつくって、何をお話になっているか理解できませんから」
パティは、先ほどまでのお人形のような彼女からは、想像も出来ない事を次々と口にした。
 なにこの子っ!? もしかしてこれが彼女の本性なわけ?!
「は? なに? どうしちゃったの? お料理に何かおかしなものでも混ざってた……わけないよね」
「……」
パティは、私が何を言っても、もう会話をする気は無いらしく、視線を合わせようともしなかった。
「再会を楽しみにしててくれたんじゃなかったの? 私達、血の繋がった姉妹なんだよ? 私は、妹がいるって聞かされた時は本当に嬉しかったんだからっ!」
「本当に血が繋がってたとしても、私は認めないわ」
そう言って、椅子から立ち上がり、部屋から出て行こうとする彼女の細い腕を掴み、立ち止まらせると、彼女は露骨に嫌悪の表情を浮かべた。
「本当に失礼な方ね。手を離して頂けない?」
腕を掴んでいた私の手を払いのけると、お付きのメイドを呼びつけて、部屋へと戻って行ったのだった。
 一体、どうなってるの……?
 もう、わけがわからないっ。
アンナはあまりにも混乱して、怒りを感じる余裕も失っていた。
ただ、今の出来事がショックで、信じられない気持ちでいっぱいだった。  続く

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