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2009年5月18日 (月)

氷の伯爵と桜色の風 ♯9

☆もくじへ☆

 晩餐会当日、私の心は新しく用意されたドレスを目の前にしても、晴れることは無かった。

あれ以来、妹のパティは口を利くどころか、視線すら合わせようとしてこない。
 両親がいる前では、本当に可憐な、お人形のような少女なんだけどね。
「はあ……」
 とても晩餐会なんて気分にはなれない……かと言って、お父様がせっかく私の為に、と開いてくれるのに欠席するわけにもいかないしな。
 今夜の晩餐会は、アンナにとって憂鬱な物でしかなくなってしまっていた。
「アンナお嬢様? お加減でも悪いのですか?」
 専属メイドのリリスが、心配そうにアンナの顔を覗き込む。
 アンナはその言葉に首を振るが、出来る事なら本当に具合が悪くなって、倒れてしまいたい気分だった。
「パトリシア様の事、ですか……?」
「え? あぁ、リリスはずっと私の側にいたもんね。嫌でも分かっちゃうか……」
 リリスの言葉に少し驚くが、この一週間、ずっと側にいて行動していたリリスに、嘘をついてもしょうがないと思った。
 窓の外に目をやると、空が薄紫色に染まり始めていて、晩餐会が近い事を示していた。

 私が会場に到着すると、広いホールには煌びやかなドレスや、燕尾服に身を包んだ客人達がいっぱいで圧倒される。
 次から次へと招待客が会場に到着していて、まだまだ人数は増えていきそうな勢いだった。
 入り口で呆然としていると、後ろから誰かに押されて、私はドレスの裾を思いっきり踏んでしまい、派手に前に転んでしまった。
「あら、いやだ。お姉様、大丈夫? 慣れないドレスに、もつれてしまったのかしら」
 頭上の声に視線を上げると、そこには心配そうな表情を浮かべたパティの姿があった。
 白々しい……あんたが押したんでしょ!
 私は立ち上がり、文句の一つも言ってやらないと気がすまなかった。
「あのねぇ……」
「あらあら、二人ともどうしたの? 中でお父様がお待ちですよ」
 口を開きかけたところで、お母様に声をかけられた。
「はい、お母様。お姉様も参りましょう?」
 パティは一瞬、勝ち誇ったような顔をして、すぐに元のお人形さんのような可愛らしい表情に戻り、何事も無かったかのようにお母様の後を歩き出す。
 あの切り替えの早さは、賞賛に値するわね。
そんな、パティの変化に気がついたのは私だけだろう。
 二人の後を追い、会場に足を踏み入れると、皆一斉にパティに視線をやり、ため息を漏らした。
男性だけでなく、若い女性さえも、羨望のまなざしで彼女を見ている。
 みんな、パティの美しさに夢中なのね。本性を知らないって、幸せな事よね。
 私は心の中で、独り呟いた。
周りの華やかさに圧倒されながら歩いていて、気が付くとお母様とパティの姿はどこかに消えていた。
 周りに気を取られていたら、はぐれちゃったみたい……
 どうしたものかと、思案していると、後ろから声をかけられた。
「アンナ、一人でどうしたんだい?」
 その声に振り向くと、そこには主催者であるお父様の姿があった。
「お父様! 良かった、お母様とパティとはぐれちゃって、一人でどうしたものかと考えていたの」 
 私の言葉に、お父様は穏やかな笑みを浮かべて、エスコートしてくれた。
 そのままお父様に連れられて、色々なお客様にご挨拶をしていると、背後から強い視線を感じたような気がした。
そっと振り返ると、華やかなご婦人方が集まっている一角が目に映った。
 着飾った貴婦人達の中で、更に目を惹いたのは、美しいブロンドの髪に、どこか憂いのあるブルーグレーの瞳を持った青年だった。
 まさか、彼が私なんかを見ているわけはないし、気のせいよね。
 その美しい青年が身にまとった絹の燕尾服は、シックな色合いが彼の相貌を更に際立たせていて、そして何よりも目を奪われたのは、彼の醸し出す雰囲気だった。
 彼が発するオーラは、貴族の中にいてもひときわ異彩を放っていて、神々しく輝いて見えた。
 それにしても、綺麗な人だな。天上から舞い降りた神のよう……
 もしかして、私ってこの髪の色に弱い……?
ふと幼い頃に出逢った、天使のような少年の姿を思い出した。
 彼も、同じ髪の色と瞳をしていた……
 成長したら、彼のように美しい青年になっていそう。
 でも、もしそうなってたら、恐れ多くて近づけないだろうけどね。
 そんな事を思って、あまりにも熱心に見つめすぎたのか、その彼の視線が取り巻きの女性達から、こちらに向けられた。
 いけない、あまりにも綺麗だからって、熱心に見つめすぎちゃった。
そんな風に戸惑っていると、目の前にいたお父様がその彼の姿を見つけ、歩み寄って声を掛けたのだった。
「やぁ、ジェリー。あ、いやこれは失敬。カークベリー卿、よくいらしてくれた」
 ジェリー……?
 その名前に、一瞬、懐かしいような響きを感じたが、すぐ目の前に迫った彼の姿に、そんな事はどこかに飛んでいってしまった。
 カークベリー伯爵と呼ばれた彼は、落ち着いた雰囲気を漂わせていて、私よりも少し年上に見える。
まさに、伯爵という肩書きに、相応しい青年だった。
「これは伯父様、ご無沙汰しております。そちらが、噂のレディ・アンナですか?」
 初めて聞いた、彼の声は、艶のあるバリトンで、心地よく私の耳に響いてきた。
「ああ、紹介するよ。こちらは先月伯爵位を継いだ、カークベリー卿だ。アンナにとっては従兄弟にあたるんだよ」
 そうお父様から紹介されても、私は彼の圧倒的な美貌に見惚れていて、お父様の声が聞こえていなかった。
「初めまして、レディ・アンナ。君の事はカンター卿から伺っているよ。よろしく」
 麗しい笑みを浮かべながら、手を差し出されて、私は舞い上がってしまったが、ここで失態を見せるわけにはいかず、なんとか気を取り直して、挨拶を返す事には成功した。
 この一週間、リリスと一緒に特訓した甲斐があった。
初めての華やかな場所で、失敗しないように、こっそり猛特訓を重ねてきたのだった。
 リリスに感謝しなくちゃね。
この場にはいない彼女に、すぐにでも抱きついてお礼を言いたい気分だった。  続く

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コメント

>いき♂様

ご訪問&コメントありがとうございます!
まさかコメが付いているとは思ってもいなくて感激しました><b 

ジェリーとアンナの再会が今後どうなるか見守っていただけると嬉しいです^^

投稿: かえで | 2009年5月19日 (火) 23時11分

はじめまして!

とても読みやすく、ここまで一気に拝読しました。
ジェリーとアンナ、再会ですね♪

天使の笑顔を持つ悪魔の妹もとても強烈な存在感があり、続きが楽しみです。

投稿: いき♂ | 2009年5月19日 (火) 21時34分

早速見てくれてありがと~
私らしい? 自分じゃわかりませんw

投稿: かえで | 2009年5月19日 (火) 08時11分

いよいよ登場ですね。
文面がかえでちゃんらしいと思ったよ

投稿: みつたん | 2009年5月18日 (月) 23時13分

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