« こどもの国 | トップページ | ひゃ~! »

2009年6月15日 (月)

氷の伯爵と桜色の風 ♯14

☆もくじへ☆

 ルークが、パーシヴァル家に家庭教師として訪れるようになってから、1ヶ月が経とうとしていた。
歩き方から始まり、食事マナーや会話術に至るまで、徹底的に指導を受けたアンナは、屋敷に訪れた当初からは想像も出来ないほどの、身のこなしが出来るようになっていた。

 今日は、アンナの今までの努力を労う為に、ルークがお茶会を催してくれる事になっている。
アンナは、カークランド家に向かう馬車の中で、久々に会う事になるカークベリー伯爵に想いを馳せていた。
 なんだか、ドキドキするな。
 あの晩餐会の夜以来、会ってないんだもんね。
 私の事なんて忘れちゃったかな……?
「あの……私まで御一緒させて頂いて、本当に良かったのですか?」
そんな事を考えていると、隣に座っているリリスが、緊張した様子でアンナに尋ねてきた。
「もちろんよ! リリスが、一緒にいてくれるだけで、どれだけ心強いか」
アンナは大袈裟ではなく、そう言った。
慣れない環境に戸惑うアンナに、リリスは本当に良くしてくれている。
アンナにとってリリスは、ただの専属メイドではなく、パーシヴァル家で唯一、気取らずに話せる大切な友人だった。
「ありがとうございます。そう言って頂けると、嬉しいです」
安心した様子のリリスに、笑顔を向けながらも、実はアンナの心は別の事でいっぱいになっていた。
あの、晩餐会の夜以来、レッスンの忙しさで誤魔化して、考えないようにしてきた事……
カークベリー伯爵は「あの少年」なのかどうか、何度もルークに尋ねてみようと思いながらも、聞きそびれてしまっていた。
いや、本当はアンナ自身も無意識に、答えを知る事に怯えていたのかもしれない。
もしも、あの少年がカークベリー伯爵だったら、自分はどうしたいのか、もし違ったらどうするつもりなのか。
アンナ自身も、答えを見つけられないでいるのだから……

 カークランド家に到着すると、玄関ホールまでルークが迎えに出てきてくれていた。
「本日は、お招き頂きまして、ありがとうございます」
ルークの姿を見つけ、ドレスの裾をふわりと掴み、優雅に挨拶をするアンナとリリス。
その姿を見ているルークは、満足気に微笑んでいる。
「ようこそ、レディ。今日は楽しんで下さいね」
そう言ったルークにエスコートされながら、長い廊下を歩いていくと、その壁に何枚もの肖像画が飾られていた。
歴代のカークベリー当主と、その夫人のものであろう。
アンナは、その中の一枚に目を奪われた。
 この人……私と同じ髪の色をしてる……
ふと幼い頃の記憶が蘇ってくる。
『僕の母さまが、同じ色をしていたんだ』
 あの時の少年の言葉だ。
突然立ち止まり、一枚の絵に見入っているアンナに気が付いたルークが、アンナの元へと歩み寄る。
「前カークベリー伯爵夫人、僕ら兄弟の母ですよ」
ルークは目を細め、少し寂しそうに言った。
その言葉の意味を、アンナが理解するまで、少し時間がかかった。
 ルークのお母様……?
 私の叔母様に当たるのよね?
 て、事はカークベリー伯爵のお母様でもあって……
そこで初めてアンナは気が付いた。
あの少年が、カークベリー伯爵なのか分からない今、可能性はルークにもあるという事に。
思えば、なぜ今までそんな単純な事に、思い至らなかったのか不思議な位だった。
ルークも、兄であるカークベリー伯爵と同じ髪と瞳なのだから……
 私って、思い込むと、それしか考えられなくなるのは、悪い癖だな。
 今まで気が付かなかったのは、私の願望だったのかもね。
アンナは自嘲気味にそう思った。
「アンナ? どうかしましたか?」
絵を見つめたまま、動かないアンナにルークが声をかける。
「え? あ、なんでもないの。すごく素敵な方で、少し見惚れていただけよ」
なんとかその場を取り繕うために言ったアンナの言葉を、ルークは疑った様子も無く「それじゃ、いきましょうか」と再び歩き出した。
 その先にある突き当たりの扉から、内庭へと出ることが出来るようになっていた。
内庭にある、緑のアーチを潜り抜けると、少しひらけたその場所には、美しい花々が咲き誇り、辺りに芳醇な香りを漂わせている。
その中でも、一番目を奪われたのが、まるでピンクのレースを身にまとったように、儚げで可憐な花を咲かせている一本の大樹の存在だった。
今まで見た事も無い光景に、アンナとリリスはおとぎの国に、迷い込んでしまったかのような錯覚に陥っていた。
「ここは、屋敷の中で、僕が一番気に入っている場所なんですよ」
ルークが、目の前の白いテーブルセットの椅子を引き、二人を席まで案内する。
「あのお花、初めて見たけど、とっても素敵ね」
アンナは、風が吹くたび乱れ飛ぶ花弁が、春に舞い散る雪のようで美しいと思った。
「ああ。あれは父が生前に、亡くなった母を想って植えた『チェリーブロッサム』という種類で、この時期の一週間ほどしか花を咲かせず、とても儚い感じですが、僕は大好きな花ですよ。父は、母の髪の色と似た花を咲かせるあの木を、本当に大切にしていたものでした」
ルークは少し影を落とした瞳でそう語ってくれた。
「あ、ごめんなさい。辛い事を思い出させてしまって……」
「いや、僕の方こそ、気を使わせてしまいましたね。さて、そろそろメイド達が、サンドウィッチを運んでくる頃かな」
わざと、陽気にそう言ったルークの瞳に、もう陰りは無かった。

「悪い、遅くなった。レディを待たせるとは、俺とした事が、失態だったな」
アンナが、背後から聞こえたバリトンに振り向くと、そこには以前会った時と変わらない、圧倒されるような美貌の持ち主が立っていた。
「いや、僕達も今来たところですよ。兄さん」
心の準備も無いままに、突然現れた彼に、激しく動揺し、一瞬挨拶をする事さえも忘れてしまっていたアンナに、リリスが小声で「お嬢様、ご挨拶っ」と言ったところで、アンナはやっと我に返った。
「本日は、お招きいただきまして、ありがとうございます」
アンナは、なんとか気を取り直し、先ほどルークにしたように優雅に挨拶をこなすが、内心は焦りでいっぱいだった。
「今日は、髪の毛を下ろしているんだな。そっちの方が似合ってる。まるで、あのチェリーブロッサムの妖精みたいだ」
ジェリーは挨拶をする代わりに、風に揺られてなびくアンナの髪の毛を見てそう言った。
晩餐会の夜に会った彼と、同一人物とは思えないほど、砕けた口調のジェリーに、驚きを隠せずにいるアンナ。
しかし、その思いをあからさまに表に出す事が無かったのは、今までルークから受けてきたレッスンの成果だった。
表面上は笑顔を保ちながらも、実はアンナの心は乱れていた。
 ちょ……この変貌は何っ?!
 なんだか、とっても恥ずかしい事を、サラッと言った気がするのは気のせい?!
 彼、本当にあのカークベリー伯爵よね?
褒められる事に慣れていないアンナは、赤面している様子を心なしか楽しそうに見つめるジェリーに、一瞬疑いの眼差しを向けかけたものの、これほどまでに他人を圧倒するオーラと存在感を持つ人物が、この世に2人もいるとは思えなかった。
「兄さん、アンナが驚いているじゃないですか。いくら自宅とはいえ、前回会ったのは、晩餐会の時だったんでしょう? あまり、ギャップが有りすぎるのもどうかと思いますが……」
見かねたルークが、兄に進言しているところを見ると、こちらが普段のジェリーの姿なのだと分かる。
「いいえ、カークベリー伯爵がこんなに気さくな方で、嬉しいですわ。従兄弟同士ですもの、堅苦しい事が無いお付き合いが出来るならば、そんなに嬉しい事は無いわ」
 ちょっと、苦しかったかな……?
動揺した心を悟られないように、必死でレディの仮面を被り続けるアンナ。
「ルークは家庭教師に向いているようだな。随分しっかりとしたレディになったじゃないか」
あまり感情がこもっている様には、感じられない言い方だった。
「兄さん、アンナに失礼ですよ」
兄の非礼を詫びるように、申し訳なさそうな顔でアンナを見るルーク。
「いいのよ、ルーク。ありがとう」
そんなルークとアンナのやり取りを見ていたジェリーのダークブルーの瞳が、刹那揺らめいた事には誰も気が付かなかった。
「まあ俺の本性なんて、お前とアンナの婚約が決まればいつかは分かる事だし、いつまでも社交界用の仮面を着けてるわけにもいかないだろ?」
 ……!!
「はっ!?」
ジェリーの爆弾発言に、いつも温厚で冷静なルークが珍しく大きな声を出す。
「今、なんて言ったの?! 婚約? 誰と、誰が?!」
アンナも、流石に今回ばかりは、必死にレッスンしてきた甲斐も無く、思わず叫ぶように言ってしまったのだった。続く

1クリックが元気の素です♪

にほんブログ村 小説ブログ ライトノベルへ
にほんブログ村  

にほんブログ村 小説ブログへ
にほんブログ村  ランキング参加中♪               TOPに戻る                 

|

« こどもの国 | トップページ | ひゃ~! »

小説」カテゴリの記事

コメント

>狼皮のスイーツマン様

>なんていじわるな世界なのでしょう
はいw この先ルークとアンナ。そしてジェリーの関係が動いていきます^^

投稿: 柊かえで | 2009年9月11日 (金) 14時05分

ルークとアンナが婚約……
実社会ならお似合いの夫婦。
でも物語の世界ではつまらない。
なんていじわるな世界なのでしょう
──きめつける私。

投稿: 狼皮のスイーツマン | 2009年9月 9日 (水) 03時54分

>長嶺えり子様
楽しんで頂けて光栄です
この後からは話しがだいぶ進んでいきます!(予定^^;)
今後のジェリールーク兄弟と、アンナの関係に何かがあるかも?!

投稿: 柊かえで | 2009年6月17日 (水) 01時34分

こんばんは。
今回も楽しませて頂きました。
びっくりですね。
ルークとアンナが婚約~!!??
そんな~アンナはジェリーのことが気になってるんですよね~。
これからどうなるのかしら?
心配と楽しみで~す。
(A;´・ω・)アセアセ

投稿: 長峯えり子 | 2009年6月17日 (水) 01時25分

>いき♂様
続きを楽しみにしていただけるとは、嬉しいですo(*^▽^*)o

♯14は2話分までいかない位の分量ですね

はい、大きな爆弾投下されましたw
次号で、上手く爆弾処理できればいいな、と思ってます^^

投稿: 柊かえで | 2009年6月16日 (火) 21時09分

>冬音様
ご訪問ありがとうございます~
小説も読んでもらって、嬉し恥ずかしです(/ー\*)
不定期更新ですが、よかったらまた来て下さいね
コメありがとうございます!

投稿: 柊かえで | 2009年6月16日 (火) 21時03分

分量的には二話分ですか?
長さを感じないというか、早く続きを読みたい(^^;
ジェリー、爆弾投下ですね!

投稿: いき♂ | 2009年6月16日 (火) 18時25分

こんにちわ!小説、読ませて頂きました~~
遅くなって、ごめんなさい!

明るくて優しいアンナちゃんにとても共感が持てます!
この後の展開が楽しみです♪

投稿: 冬音 | 2009年6月16日 (火) 17時34分

>雪様

うふふw
最後に爆弾落として、次回になってしまった^^;

投稿: 柊かえで | 2009年6月16日 (火) 11時19分

うふっ。さらっと問題発言。
兄ちゃん過激だわ~\\^^

投稿: 雪 | 2009年6月16日 (火) 06時06分

この記事へのコメントは終了しました。

トラックバック


この記事へのトラックバック一覧です: 氷の伯爵と桜色の風 ♯14:

« こどもの国 | トップページ | ひゃ~! »