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2009年7月19日 (日)

氷の伯爵と桜色の風 ♯19

☆もくじへ☆

「今もそのハンカチは、どこかに大切に保管されていると思いますよ?」

 アンナはルークの言葉を、信じられないといったような表情で聞いていた。
「ルーク、カークベリー伯爵は、今どこにいるの?」
アンナは、深緑の瞳に強い決意の色を浮かべながら尋ねた。
「兄さんなら、今朝早くに出かけたようですけど……秘書のケネスに聞いてみましょうか。今日は珍しく、ケネスは同行していないようですから」
いつも外出の際には、必ずと言っていいほどジェリーに同行している秘書が、先ほど彼の仕事部屋で書類整理をしているのを見かけ、珍しい事もあるものだと思っていたところだった。
傍らに控えていた執事に、ケネスを呼ぶように言いつけると執事は一礼をして部屋を出て行った。
「本当に、何から何までごめんなさい」
その様子を黙って見つめていたアンナが「婚約は出来ない」などと、かなり失礼な事を告げに来たのに、相変わらず良くしてくれるルークに、心苦しそうに俯いて言った。
「そんな事は気にしなくていいんですよ? 僕だって、意に沿わない結婚をしたいわけじゃありませんし、それに……」
「それに?」
珍しく言葉を濁すルークに、アンナは首を傾げる。
「それに……」
「失礼致します。お連れしました」
ルークの言葉は、先ほど立ち去った執事がジェリーの秘書ケネスを連れて部屋を訪れた事で遮られ、アンナの耳には届かなかった。
「あぁ、ケネス。急に呼び出してすみません。兄さんの行き先を知りませんか? 珍しく、一人で出掛けたようですが?」
「はい。伯爵様は、ハーヴェイ孤児院に向かわれました。今日は私用なのでお供はいらないとの事でした」
彼は、ルークの質問に答えると「では、私はこれで」と一礼だけを残し、部屋を立ち去って行った。

 どうして、カークベリー伯爵がハーヴェイへ?!

ケネスが去ったドアを見つめながら、アンナは怪訝な表情を浮かべている。
ルークもアンナと同じ思いのようで、思わず二人は顔を見合わせた。
「まあ、代々カークランド家は、ハーヴェイ孤児院へ支援金をしているので、兄さんが訪問するのも全く有り得ない話しではないのですが……にしても妙ですね」
気を取り直すようにそう呟いたルークは、手を顎に当てしばし考え込んでいる。
「私、孤児院に行ってみる。久しぶりに、院長先生やシスターや子供達にも会いたいし。ここで、ウジウジ考えていても何も始まらないでしょ?」
考え込んでいるルークにアンナがそう言うと、ルークは少し溜息をつきながら微笑んだ。
「僕も一緒に行きますよ」
「そうね、二人で行ってカークベリー伯爵ときちんと話し合わないとね」

 とにかく、カークベリー伯爵に、ルークと婚約する事は出来ないって伝えなくちゃ!

アンナは、今日何度目かの決意を胸に、ルークと共に屋敷を後にした。

「まだあれからそんなに経って無いはずなのに、もう随分前のことみたいだなー」
馬車から降り立ち、アンナは一人そう呟く。
アンナがここ、ハーヴェイ孤児院を出てから、まだ半年も経っていないのだが、それまでとはあまりにも違う環境に置かれた彼女にしてみれば無理も無い事だろう。
「アンナ。まずは、院長先生にご挨拶に向かおうと思うのですが」
しばし懐かしそうに辺りを見渡していたアンナは、ルークの言葉でここに来た本来の目的を思い出したようだった。
「あ、ごめんなさい。なんだか懐かしくて。さあ、いきましょ?」
「兄さんが、まだいてくれるといいのですが」
施設内に入り、入り口で名簿に記入を済ませると、通りかかったシスターが驚いた表情でアンナに駆け寄ってきた。
「まあ! アンナじゃないの! 元気そうね」
二十代半ばほどに見える彼女は、アンナがここから旅立つときに見送ってくれたシスターだった。
「シスター・ダナ! 久しぶりー!」
アンナは、姉のように慕っていたダナに再会して、嬉しそうに抱きついた。
「あ、こちらは……?」
アンナとの久し振りの再会に喜んでいたダナが、隣に立つルークに気が付き尋ねると、アンナは抱きついていた彼女から離れ、ルークを紹介する。
「こちらは、ルーク・カークランドさんよ」
「カークランド、さん……って、伯爵家の! これは失礼致しました、ご挨拶が遅れました。私、シスターのダナ・シートンと申します」
カークランド家といえば、ハーヴェイ孤児院で知らぬ者はもちろんいない。
まだ再会の余韻に浸り、嬉しそうに紹介したアンナとは対照的に、ダナは思わぬ再会に驚いたとはいえ、真っ先に挨拶をするべき相手に失礼をしてしまったという気持ちからか、肩を竦めて小さくなって挨拶をする。
「これは、ご丁寧にありがとうございます。ルーク・カークランドです」
ルークは、別段気にする風も無く、柔らかい物腰でダナに笑顔を返した。
「あ、そうだ、シスター・ダナ。ここに、カークベリー伯爵が来なかった?」
「え……? あ、伯爵様なら、先ほどまでいらして、院長先生とお話されてたのは知ってるけど、その後はわからないわ」
アンナの問いかけに、呆けたようにルークに視線を奪われていたダナが、慌ててアンナに向き直りそう言った。 続く…

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コメント

> 狼皮のスイーツマン様
柊も知らずに書いてしまっていて、とても参考になったコメでした^^
>〈執事もの〉というジャンルができてしまったのかもしれませんね?
そうですね。個人的には執事もの、嫌いじゃありませんが^^

投稿: 柊かえで | 2009年9月16日 (水) 20時58分

 執事がノックをしない。知りませんでした。拙作で執事をかかなくて良かったです。昨今、羊(執事)の群れがすごくてへきへきです。〈執事もの〉というジャンルができてしまったのかもしれませんね?

投稿: 狼皮のスイーツマン | 2009年9月15日 (火) 19時54分

>いき♂様
なるほど^^

投稿: 柊かえで | 2009年7月22日 (水) 12時59分

はい、あのツールに表示されるサイトはどんどん変更されますから(^^;
まあ、あっちのブログは内容的には物語系とは全然接点がないので(^^;;

投稿: いき♂ | 2009年7月22日 (水) 08時24分

>いき♂様

>ルーク、たしかにいい男オーラが。
やっぱり出てます?w 勝手に動き出すので困ってます^^;
自分で書くのに、どうして思ったとおりに動いてくれないんですかね?><

>無関係な話題ですが、右側のブログツール「あわせて読みたい」に、私のお仕事ブログが表示されていますね♪
ほぉ!見に行ってみよう…と思ったら、それっぽいものを発見できず><あれって、ちょこちょこ変更されるんですかね?それとも気がつかなかっただけかな?^^;

投稿: 柊かえで | 2009年7月21日 (火) 22時59分

ルーク、たしかにいい男オーラが。
パティちゃんが何考えてるのか気になりますね……(^^)
 
 
無関係な話題ですが、右側のブログツール「あわせて読みたい」に、私のお仕事ブログが表示されていますね♪

投稿: いき♂ | 2009年7月21日 (火) 19時21分

> 西宮様
ほ~!そうなんですね!初耳で、驚きました
西宮さんのお話は、私にとっていつも目からウロコで、とてもためになりますありがとうございます^^

投稿: 柊かえで | 2009年7月20日 (月) 11時09分

> 長峯えり子 様
楽しんでいただけたようで嬉しいです
本当は、ジェリーがこの回で出てくるはずが、先延ばしになってしまいました^^; 
次回、ジェリーが孤児院を訪れた理由が明らかになります^^

投稿: 柊かえで | 2009年7月20日 (月) 11時01分

枝葉末節ですが(^^;

執事はノックをしないものだそうです。

そういえば、ノックをしたために偽物の執事だとバレてしまう、というお話を読んだ記憶が(たぶん、英国を舞台にしたミステリー)。

最近はいろんな執事がいるので(笑)何でもありでもいいかもしれませんが、ご参考までに〜。

投稿: 西宮 | 2009年7月20日 (月) 05時54分

今回も楽しんで読みました。
ジェリーがどうして孤児院に来ていたのか?気になりますね~。
早くくっついて欲しい私としては、ハラハラ。
次回も楽しみにしてますね~~。

投稿: 長峯えり子 | 2009年7月20日 (月) 01時39分

>雪様
雪ちゃんは、ルークがお気に入りだよねw
次回からはジェリーが活躍(?)する予定です(あくまで予定…^^;)

投稿: 柊かえで | 2009年7月19日 (日) 11時50分

ルークいいよ。ルークw
やっと孤児院来たんだねー!
次回は兄ちゃん出てくるのかな?
続きもがんばってね~^^

投稿: 雪 | 2009年7月19日 (日) 09時11分

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