小説

2009年12月 9日 (水)

氷の伯爵と桜色の風 ♯21

☆もくじへ☆

 決死の覚悟で想いを告げたアンナは、ジェリーの冷たい反応に覚悟はしていたものの、傷心のため息をついた。 
「私、あなたにそこまで嫌われてるとも知らずに、バカだよね。困らせちゃってごめんなさい。でも、ルークとの婚約の話しは無かった事にしてもらいます。それが無理なら、パーシヴァルの家も出る」
居たたまれない表情のアンナは、吐き出すようにそう言うと、ジェリーが立ち去るよりも早くその場から立ち去ろうとする。
「家を出る? 何を馬鹿なことを……」
そんなジェリーの言葉には耳を貸さず、顔を伏せたままアンナが彼の横を通り過ぎようとした時、ふいに腕を掴まれ、そのままジェリーの腕の中に囚われた。
 突然もたらされた温もりに、呼吸をする事さえも忘れてしまいそうになる。
アンナは反射的に振りほどこうとするが、しっかりと抱きしめられていて動くに動けなかった。
「嫌いになれたらどんなに楽か……」
「え……?!」
喉の奥から搾り出すように言ったジェリーの切なげな表情は、抱きすくめられたアンナからは見えないが、その言葉に思わず身体の力を抜く。
「ジェリー……?」
いつもの違うジェリーの様子に、アンナの声は不安に揺れる。
「もう、イヤだって言っても離さない。あとで後悔しても知らないからな」
ジェリーは何かを決意したようにそう言うと、そのままアンナの手を取り歩き出した。
「ちょ、ちょっと?! どこに行くの?」
混乱したアンナのそんな問いかけにも無言のまま、かつて自分の母の葬儀が執り行われた教会の方へと向かって行く。
 そこにに待たせてあった、カークランド家の紋章が入った馬車にアンナを乗り込ませると、ジェリーは短く行き先だけを告げ、その後は黙り込んでしまった。

 アンナは、沈黙が支配した馬車の中で、まるで攫われるように馬車に乗せられてすっかり混乱しているというのに、自分とは対照的に何も無かったように落ち着いた様子で、いつもと変わらず神々しいほどのオーラを纏わせたまま涼しい顔でいるジェリーに、だんだん腹が立ってきていた。
「あ、あのっ!」
「ん? なんだ」
「なんだじゃないわよ! 一体、どういうつもりなのか説明して」
てっきり自分は嫌われてしまっているのだと思った矢先の急展開に、アンナの気持ちが付いていくわけも無く、自然と口調は厳しいものになっている。
「アンナ。伯爵夫人になる覚悟はあるか?」
まったく人の話を聞いていないジェリーの様子に、アンナはしばらく沈黙する。
 乗っている馬車の走る音が、やけに遠くに聞こえていた。
ようやく少しずつ回り始めた思考で、ジェリーの言葉を反芻する。
「伯爵夫人になる……それって……」
「もちろんプロポーズだ。もう、離さないって言っただろう?」
ジェリーのとどめの一言に、アンナの回り始めた思考は、いよいよショートしそうになっていた。
「えっ?! え? えーっ!!」
「なんだ、やっぱりイヤなのか?」
言葉ではそう問いながらも、ジェリーの表情は自信に満ち溢れている。
 そんなジェリーの言動をアンナが理解するのは難しいだろう。
なにせ、他でもないジェリー自身がルークとアンナを婚約させようとしていたはずなのに、今度は自分と結婚してくれ言い出したのだから無理も無かった。
「嫌だとかそういう問題じゃ…… あなたは、私とルークを婚約させようとしてたんでしょ。それが、なぜ急にそんな事を言い出すの? こんな納得のいかない状況で、プロポーズされても嬉しくないわ」
大好きな人の妻になる。それほど嬉しい事は無いはずなのに、そこでうっとりと頷けるほどアンナはお嬢様ではなかった。
つい見入ってしまいそうになるダークブルーの瞳を真っ直ぐ見据えて、ジェリーからの返答を待った。
真っ直ぐに見つめられたジェリーの表情が、宝物を見つけた少年のように崩れていく。
「それでこそアンナだ」
「どういう事?」
「さて、どこから話そうか。おれは自分の話しをするのが苦手でね」
そう言ってジェリーが語りだしたのは、二人が短い出逢いをした少し後の話しだった。

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2009年8月31日 (月)

氷の伯爵と桜色の風 ♯20

☆もくじ☆

「一足遅かったみたいですね」
院長に挨拶に向かった二人は、ジェリーとは行き違いになったようで、会うことは出来なかった。
「そうね。私、ちょっと施設内を周って来ようかな。ルークは、どうする?」
「僕は、遠慮しておきますよ。せっかくの機会ですから、アンナ一人でゆっくりしてきて下さい」
アンナは、微笑むルークにお礼を言って、その場を後にした。

 院長室から、かつてのアンナの部屋へと続く通路を進んでいくと、廊下の窓からそよぐ風がアンナの桜色の髪を揺らしていく。
外には、あの日と同じように大木がそびえ立っていた。
「誰か、いる……?」
何気なく窓の外に目を向けたアンナが、大木の下に佇む人影に気が付いた。
アンナには、太陽の日差しを受けてキラキラと輝くようなブロンドの人物が誰なのか、逆光で顔が見えなくてもすぐに分かった。
 廊下から中庭へ出るドアを開け、何かに惹きつけられるように歩き出す。
思わず駆け寄ってしまいそうになる衝動を何とか抑えて、一歩また一歩と足を進めるたびに、時間が溯っていくような感覚に襲われた。
 あの日、孤児院を抜け出して教会に向かったアンナは、大木の下に見慣れない男の子がいるのに気が付いた。
やっぱり、今みたいに日差しを受けてキラキラと輝くブロンドに、対照的な暗い表情をしていた男の子。
「ジェリー」
アンナの口から零れたのは、幼かったあの日そのままの名前だった。
思いもよらず声をかけられたジェリーが、アンナの姿を見て顔を上げる。
「アンナ……? どうして君がここに?」
夕日を背に佇んでいるジェリーの表情は、アンナからは窺う事は出来ない。
「あの……私……」
聞きたいことも、言いたい事もたくさんあったはずなのに、上手く言葉に出来なかった。
「まったく君は、男爵家の令嬢っていう自覚はあるのか? こんなところまで一人で来たりして、相変わらずはねっかえりだな」
「違います!ここには、ルークと二人で来たの」
言ってから、アンナは後悔した。これから、自分の思いを告白しようとしているのに、変に誤解されても仕方が無い事を口走ってしまったのだから。
「そうか、それなら納得だな。二人で、お世話になった人に婚約のご挨拶に伺ったってわけだ」
「ち、違うわっ! 私……私は、あなたに話しがあって、ここまで来ました」
皮肉っぽく言ったジェリーは、慌てて否定したアンナの言葉に、少し意外そうな顔をした。
「俺に? ふむ。いいだろう、話しを聞こうじゃないか」
木の幹に寄りかかっていたジェリーは、身体を起こしアンナに一歩近づくと、続きを促すようにじっと彼女の顔を見つめる。
 目前に迫る美しい顔に、アンナは熟しすぎたりんごのような顔で俯いていたが、意を決したように顔を上げてジェリーと視線を合わせた。
「私、ルークとは婚約しない。好きな人がいるの」
アンナがそう切り出すと、ジェリーは僅かに眉を寄せ、怪訝な表情を浮かべている。
「好きな人? まだ、パーシヴァル家に来て間もない君が、いつ恋をする時間があったのか知りたいね」
ジェリーは、少し口調を強めて、アンナを問い詰めるように言った。
「違うわ! 私は、子供の頃からずっと思ってる人がいるの。そう、ちょうどこの場所で出会った男の子…… ジェリー、あなたなんでしょ?」
確信を持ったアンナの視線が、ジェリーに真っ直ぐ注がれている。
「なんの話しだ? 俺には、何の事だかわからないな」
「嘘よ。じゃあ、何故ここにいるの? どうして、ハーヴェイに来たの?」
アンナには、ジェリーが何かを隠しているように思えた。
「それを、君に説明する必要は無い」
ジェリーの突き放したような言葉に、ショックを受けたアンナが次の言葉を見つけられずに黙ってしまうと、彼はその場から立ち去ろうと、アンナに背を向けた。 続く

                                         

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2009年7月19日 (日)

氷の伯爵と桜色の風 ♯19

☆もくじへ☆

「今もそのハンカチは、どこかに大切に保管されていると思いますよ?」

 アンナはルークの言葉を、信じられないといったような表情で聞いていた。
「ルーク、カークベリー伯爵は、今どこにいるの?」
アンナは、深緑の瞳に強い決意の色を浮かべながら尋ねた。
「兄さんなら、今朝早くに出かけたようですけど……秘書のケネスに聞いてみましょうか。今日は珍しく、ケネスは同行していないようですから」
いつも外出の際には、必ずと言っていいほどジェリーに同行している秘書が、先ほど彼の仕事部屋で書類整理をしているのを見かけ、珍しい事もあるものだと思っていたところだった。
傍らに控えていた執事に、ケネスを呼ぶように言いつけると執事は一礼をして部屋を出て行った。
「本当に、何から何までごめんなさい」
その様子を黙って見つめていたアンナが「婚約は出来ない」などと、かなり失礼な事を告げに来たのに、相変わらず良くしてくれるルークに、心苦しそうに俯いて言った。
「そんな事は気にしなくていいんですよ? 僕だって、意に沿わない結婚をしたいわけじゃありませんし、それに……」
「それに?」
珍しく言葉を濁すルークに、アンナは首を傾げる。
「それに……」
「失礼致します。お連れしました」
ルークの言葉は、先ほど立ち去った執事がジェリーの秘書ケネスを連れて部屋を訪れた事で遮られ、アンナの耳には届かなかった。
「あぁ、ケネス。急に呼び出してすみません。兄さんの行き先を知りませんか? 珍しく、一人で出掛けたようですが?」
「はい。伯爵様は、ハーヴェイ孤児院に向かわれました。今日は私用なのでお供はいらないとの事でした」
彼は、ルークの質問に答えると「では、私はこれで」と一礼だけを残し、部屋を立ち去って行った。

 どうして、カークベリー伯爵がハーヴェイへ?!

ケネスが去ったドアを見つめながら、アンナは怪訝な表情を浮かべている。
ルークもアンナと同じ思いのようで、思わず二人は顔を見合わせた。
「まあ、代々カークランド家は、ハーヴェイ孤児院へ支援金をしているので、兄さんが訪問するのも全く有り得ない話しではないのですが……にしても妙ですね」
気を取り直すようにそう呟いたルークは、手を顎に当てしばし考え込んでいる。
「私、孤児院に行ってみる。久しぶりに、院長先生やシスターや子供達にも会いたいし。ここで、ウジウジ考えていても何も始まらないでしょ?」
考え込んでいるルークにアンナがそう言うと、ルークは少し溜息をつきながら微笑んだ。
「僕も一緒に行きますよ」
「そうね、二人で行ってカークベリー伯爵ときちんと話し合わないとね」

 とにかく、カークベリー伯爵に、ルークと婚約する事は出来ないって伝えなくちゃ!

アンナは、今日何度目かの決意を胸に、ルークと共に屋敷を後にした。

「まだあれからそんなに経って無いはずなのに、もう随分前のことみたいだなー」
馬車から降り立ち、アンナは一人そう呟く。
アンナがここ、ハーヴェイ孤児院を出てから、まだ半年も経っていないのだが、それまでとはあまりにも違う環境に置かれた彼女にしてみれば無理も無い事だろう。
「アンナ。まずは、院長先生にご挨拶に向かおうと思うのですが」
しばし懐かしそうに辺りを見渡していたアンナは、ルークの言葉でここに来た本来の目的を思い出したようだった。
「あ、ごめんなさい。なんだか懐かしくて。さあ、いきましょ?」
「兄さんが、まだいてくれるといいのですが」
施設内に入り、入り口で名簿に記入を済ませると、通りかかったシスターが驚いた表情でアンナに駆け寄ってきた。
「まあ! アンナじゃないの! 元気そうね」
二十代半ばほどに見える彼女は、アンナがここから旅立つときに見送ってくれたシスターだった。
「シスター・ダナ! 久しぶりー!」
アンナは、姉のように慕っていたダナに再会して、嬉しそうに抱きついた。
「あ、こちらは……?」
アンナとの久し振りの再会に喜んでいたダナが、隣に立つルークに気が付き尋ねると、アンナは抱きついていた彼女から離れ、ルークを紹介する。
「こちらは、ルーク・カークランドさんよ」
「カークランド、さん……って、伯爵家の! これは失礼致しました、ご挨拶が遅れました。私、シスターのダナ・シートンと申します」
カークランド家といえば、ハーヴェイ孤児院で知らぬ者はもちろんいない。
まだ再会の余韻に浸り、嬉しそうに紹介したアンナとは対照的に、ダナは思わぬ再会に驚いたとはいえ、真っ先に挨拶をするべき相手に失礼をしてしまったという気持ちからか、肩を竦めて小さくなって挨拶をする。
「これは、ご丁寧にありがとうございます。ルーク・カークランドです」
ルークは、別段気にする風も無く、柔らかい物腰でダナに笑顔を返した。
「あ、そうだ、シスター・ダナ。ここに、カークベリー伯爵が来なかった?」
「え……? あ、伯爵様なら、先ほどまでいらして、院長先生とお話されてたのは知ってるけど、その後はわからないわ」
アンナの問いかけに、呆けたようにルークに視線を奪われていたダナが、慌ててアンナに向き直りそう言った。 続く…

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2009年7月13日 (月)

短編 テュリプ ~望みの無い恋~

 友人達や同僚は口を揃えて同じ事を言う。
「顔だけの男なんてやめときなって」
 わかってる。
「都合のいい女にされてるだけじゃん」
 そんな事、わかってるわよ!
私だって、彼女達の立場なら同じ事を言うと思う。
でも、わかっててもどうしようも出来ない想いがある。
心の奥底から湧き上がってきて、押さえ切れない恋情。
まるで、初めて恋を知った少女のように、熱に浮かされ、周りが見えなくなっている。
そんな自分を自覚している。
 これまで、恋愛をしたことが無いわけじゃない。
それなりに……んーん、きっとそれなり以上に経験してきた。
ハッキリ言えば、今まで男に苦労した事なんて一度も無かった。
そう、彼に出逢うまでは……

 彼――三ツ谷正吾は、半年前に若干29歳にしてうちの会社の営業部長に抜擢されたやり手の営業マンで、私と4つしか違わない直属の上司だった。
ずっと営業畑にいる私にとって、一番恋愛対象外なのが、同業者の男。
営業の男達って、嫌になるくらい口が上手くて、話しも面白い人が多い。
でも、そんなのはただの職業病みたいなもので、社交辞令でしかないこともわかってるから。
 それなのに、初めて彼に会ったとき、私の心は一瞬にして奪われてしまった。
モロタイプの顔だったっていうのもあったけど……それよりも惹かれたのは、彼がまとった独特の雰囲気だった。
 危険な感じ……絶対に惚れたらいけない類の男。
 いかにも遊びなれていそうで、近づいたら痛い目を見る。
そう頭の中では警鐘が鳴ったのに、私は自分の気持ちを抑える事が出来なかった。
絶対に、惚れちゃいけない男に惚れてしまったんだ。

 仕事が終わるのを、見計らったように鳴り出す携帯電話。

――今夜、うちに来る?――

正吾からの、呼び出しのメールだった。
いえ、正確には呼び出しじゃなくて『お伺い』メールね。
彼が私に指図する事はない。
全部、私の意志で決めさせるのが、彼のやり口。
「もう、勝手なんだから……」
 私から会いたいって言っても、なんだかんだと理由を付けてはぐらかすくせに……
そう呟きながらも、自然と頬が緩んでいくのを感じた。 
 私と正吾は、別に付き合ってるわけじゃない。
彼の歓迎会の日に、そのままお持ち帰りされて、自然の成り行きで関係を持ったけど、ただそれだけ。
次の日の朝、彼が私に言ったのは「俺は誰とも付き合う気は無いから」だった。
そうなるだろうって事はわかっていた。それでも彼の魅力に逆らえずに、ずるずると続く関係。
 ただの遊びよ。
何度、自分に言い聞かせたかわからない。
割り切った関係なら、辛くはないから。
それなのに、彼はとことんずるかった。
私に合鍵を持たせて「いつでも自由においで」なんて、嘯くのだった。
 期待なんてしない。
そう誓ったのに、徐々に悲鳴を上げ始める心。
 もしかして本当は……
この半年で、そんな想いを何度奥底に押しやったかわからない。

 メールがきてから1時間ほどで、通いなれた彼の自宅の前に着いた。
渡されている合鍵で玄関の鍵を開けた私の目に、まず飛び込んできたのは、見慣れない女物のサンダルだった。
「……」
一瞬で、状況を把握した私は、ただその場から立ち去る事しか出来なかった。
 
 なにあれっ! 有り得ないでしょ?! 自分から呼び出しておいて、他の女を連れ込んでるとか!

 あんな男に惚れた自分が馬鹿みたいで、涙が溢れた。
次から次へと零れ落ちる雫を拭いもせずに、ただひたすら歩いた。
歩いて、歩いて、歩き疲れて辿り着いた公園のベンチに腰掛ける。
頭の中は真っ白で、何も考えられなかった。
ただ、自分の愚かさと、彼の無神経さに腹が立って、涙は止まる事がなかった。
見上げた夜空が嫌味なほどに綺麗で、また泣けた……
 
 どの位そうしていたのか、一生分泣いたんじゃないかと思うほど出尽くした涙は止まっていた。
 本当に私って、バカだなぁ……
冷静になってみて、初めて自分が本気で彼を愛しているんだと痛感した。
こんなに酷い仕打ちをされても、彼を憎めない。
好きになってしまった自分が愚かなんだとしか思えなかった。
 あんな男、こっちから願い下げよ……
そう決意して立ち上がり、駅に向かおうと歩き出したとき、バックの中で携帯が鳴り出した。
液晶画面には、憎くて愛しい人の名前……
出る気にもなれなくて無視していると、呆気なく途切れる着信音に、ズキっと胸が痛んだ。
また溢れ出してしまいそうな涙を堪える。
「私、いつからこんなに泣き虫になったんだか……」
思わず自嘲気味な笑みがこぼれた。
重い足を引きずるように歩き出すと、再び鳴り響く携帯の着信音に、私の決意は脆くも崩れ去った。
もう、無視する事の出来ないその音に、震える手を押さえながら通話ボタンを押す。
「美咲? 今どこにいる? さっきはごめん」
「バッカじゃないの?! よく電話してこれるわね! 自分がした事考えなさいよっ!」
半分涙声になってしまった。
「これから、うちに来る?」
まったく悪びれない彼の態度に、私はもう諦めた。
この人には敵わない。惚れた時点で私の負けだったんだ。
どんなにバカな女だって思われてもいい。少しでも彼の側にいられるなら。
私は、タイミングよく近づいてきたタクシーに乗り込んだ。
憎くて愛しいあの人に会いに行くために……
 

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2009年7月 4日 (土)

氷の伯爵と桜色の風 ♯18

☆もくじへ☆

 アンナは、パーシヴァル家に来て以来、初めて自分の持ってきた荷物を手に取った。
ここに来てから、色々な事がありすぎてしまいこんだままになっていたのだ。
 
 孤児院の事、思い出す暇も無いくらいバタバタしてたな……
 
年期の入ったそのカバンの中から、あの白いハンカチを取り出した。
 
 あの子が、誰だったとしても私の気持ちは変わらない。

自分の気持ちを確信したアンナが、そのハンカチを手に向かった先は、カークランド邸。
すぐにでもルークに会って、話しをしなければいけないと思ったのだ。

 私、やっぱりカークベリー伯爵が好き! 
 こんな気持ちのままルークと婚約なんかしたら、一生後悔するわ。

アンナは、カークランド邸に向かう馬車の中で、強くそう思った。
 邸に到着すると、まず一度、深呼吸をしてから思い切って呼び鈴を押すと、すぐに中から執事らしき男性が現れたので、ルークに取り次いでもらうようにお願いする。
「かしこまりました。すぐにお呼び致しますので、応接室でお待ちください」
執事はそう言うと、アンナを応接室まで案内してくれた。
進められるがまま、ソファーに腰掛けるアンナだったが、パーシヴァル家以上に豪華な応接室は、なんだか落ち着かない気分になる。
 メイドが飲み物を持って応接室に入ってくるのと、ほぼ同時にルークが現れた。
「やあ、アンナ。いらっしゃい、今日もいい天気だね。あ、どうぞ」
ルークは、アンナが突然訪れた理由を聞くわけでもなく、メイドが運んできた紅茶をアンナに勧めた。
当然、理由を聞かれるだろうと思っていたアンナは、拍子抜けしてしまった。
 
 絶対「どうしたの?」って聞かれると思ってたのに。
 なんて、切り出そうかな……
 まずは、あの事を念のため確認しないとね。

アンナは、バックの中から、あのハンカチを取り出して、目の前のテーブルの上に置いた。
「ん? それは? 僕へのプレゼント……という訳では無さそうですね?」
ハンカチを見ても、本当に見覚えの無さそうなルークに、アンナの考えは確信へと変わっていた。
「これに、見覚えはない?」
アンナの言葉に、ルークは静かに首を横に振り、ハンカチを手に取った。
「イニチャルが刺繍されてますね。『J.K』……ジェレミー・カークランド。もしかして、これって兄さんのですか? にしても、かなり古そうですが……」
そこまで言うと、ルークはふいに何かを思い出したようだった。
「ああ、なるほど。そう言うことですか」
「え? そう言うことって?」
何が「そう言うこと」なのか、ルーク本人は納得した様子だったが、アンナは、ルークの言葉の意味を図りかねていた。
「それについては、アンナの話しの続きを聞いてからお話ししますよ。今日は、他にも何か僕に話したい事があって来たんでしょ?」
普段は、受ける印象が違いすぎて、あまり似ていない兄弟だと思われているが、ちょっと楽しそうに瞳を輝かせているルークは、ジェリーと間違いなく兄弟なんだと思わせる雰囲気だった。
「まあ、そうなんだけど……その……」
「その?」

 なんて言えば、一番失礼じゃないんだろう……
 あー!もう。私らしくもない!

「私、ルークとは婚約出来ないの! ごめんなさいっ!」
椅子から立ち上がり、深々と頭を下げるアンナのストレート過ぎる行動にはさすがのルークも驚いて、持っていたティカップを危うく落としそうになっている。
「あ、あの……ルークの事が嫌だとか、そういう事じゃなくて、なんて言うか……」
アンナは、自分で考えていた以上にストレートに言ってしまった事を後悔して、慌てて説明をしようとした。
「好きな人がいる。ですね?」
アンナが、言わんとしている事は、ルークにはとっくにお見通しのようだった。
「え?! どうして、それを?」
「やっぱり。アンナは羨ましいくらい真っ直ぐですね。僕も、少し見習わなくちゃいけませんね」
ルークはそう言って一度言葉を切ると「約束どおり、僕がそのハンカチを見て思い出したことをお話しします」と言って、ルークが教えてくれたのは、ルーク9歳、ジェリーが10歳の頃の話しだった。
 二人の母親の葬儀の日、ジェリーが途中でいなくなって、ちょっとした騒ぎになり、しばらくして戻ってきたジェリーの手には、女の子用のハンカチが大事そうに握られていた。というエピソードだった。
 そして、ルークは最後に「今もそのハンカチは、どこかに大切に保管されていると思いますよ?」と付け足した。 続く…                   

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2009年6月28日 (日)

氷の伯爵と桜色の風 ♯17

☆もくじへ☆

 楽しげなバースディパーティから一変、着飾った大人達のただならぬ雰囲気。取り乱している男爵夫妻の顔。
そして「僕のせいだ……」という強い自責の念。
 今もジェリーの記憶に残る、悪夢の日……

 その日は、カンター男爵夫妻の2歳になる令嬢、アンナのバースディパーティが開かれていた。
カンター男爵家の広い庭は、招待客で埋め尽くされていた。
もちろんそこには、幼き日のカークベリー兄弟の姿もあった。
 その日の主役のアンナは、カンター男爵夫人に抱かれながら来客に笑顔を振りまいていたが、しばらくすると飽きてしまったようで徐々にグズり始めたのだった。
まだ2歳の少女にとってパーティは、意味も分からず退屈なものでしかなくなってしまっていた。
カンター男爵夫人は、抱かれているのが嫌で暴れるアンナを、仕方なく芝生の上に降ろした。
と、次の瞬間、小さな少女は解放された事に喜び、人ごみの中を駆け出して行く。
「あっ! アンナ待ちなさい」
「叔母様、僕とルークで見てるから大丈夫だよ」
慌てて娘の後を追おうとするカンター男爵夫人に、良く知った少年――ジェリーがそう声をかけた。
 勝手知ったるなんとやらで、ジェリーは弟のルークと共に、大人達の間を縫ってアンナの後を追う。
まだヨチヨチと歩く彼女には、すぐに追いつく事が出来た。
そのまま3人は裏庭へと向かい、遊び始めたのだった。
「兄さん、追いかけっこしようよ」
ジェリーは、弟のルークに誘われ、何気なく始めた遊びに夢中になっていた。
まだ上手く走ることが出来ないアンナは、すぐ側にある花畑に座って、楽しそうに二人の様子を眺めていた。
はずだった……
 二人が一瞬目を話した隙に、さっきまでそこにあったはずの幼い少女の姿は消えていた……
 
「アンナッ!」 
奈落の底に引きずり込まれるような感覚に目を覚ますと、そこは自室のベットの上だった。
ベットの上で身を起こしたジェリーの額には、冷たい汗が噴き出していた。

 今更、あんな夢を見るなんて……
 アンナのことは、ルークに任せておけばいいんだ。

「生きてまた、戻ってきてくれただけで十分じゃないか。それ以上、何を望むというんだ……」
ジェリーは、自分に言い聞かせるようにそう呟く。
 
 自分自身で決めたことを迷うなんて、俺らしくも無い。
 
 数年ぶりに見た悪夢の余韻を拭い去るように、額の汗を拭い、部屋のバスルームに向かう。
いつもなら秘書のケネスが起こしに来るのだが、今日は彼が部屋に来た時には、完全に外出する支度は整っていた。
「出かける、馬車をまわしてくれ」
支度を済ませたジェリーは、ケネスにそう言い玄関ポーチへと向かった。
 広く長い廊下を歩いて行くと、ルークの部屋のドアが見えてくる。

 あいつが怒ったところを見たのは、何年振りだろうな……
 子供の時以来か? そのせいで、あんな夢を見たのかもしれないな。

ジェリーは苦笑を浮かべ、また歩き出した。
 主人の言葉に忠実なケネスは、ジェリーが玄関先に出てきたときにはすでに、馬車と共に待機していた。
「私用だ。今日は一人で行く」
主人を馬車に乗せ、逆側に周り込もうとするケネスを呼び止め、そう指示する。
「いってらっしゃいませ」
ジェリーと常に行動を共にしていた彼は、主人の普段に無い言葉に僅かに訝しげな表情をしながらも、一歩下がって見送る姿勢をとった。
「ハーヴェイ孤児院に、行ってくれ」
ケネスに見送られ馬車に乗り込んだジェリーは、従者に行き先を告げた。続く

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2009年6月23日 (火)

短編 「花火」

この小説は、他ブログに載せていたものをこちらに移したものです
恋愛 青春 甘酸っぱい 片思い といったような内容になってます。興味を持たれた方はどうぞ^^グググっと下のほうへ

☆もくじへ☆

「ねえねえ。明日さ、みんなで花火やらない?」
長かった夏休みも終わろうとしていたある日、美沙がそんなことを言い出した。
「花火? いいけど、どうしたの急に?」
「もうすぐ夏休みも終わりだし、なんか思い出が欲しいじゃん?」
 言われてみれば、今年の夏休みは特に何もする事がないまま、なんとなく過ぎていった感じかも。
 彼氏でもいれば、何か変わったのかもしれないけどさ。
「岡田君も誘おうよ」
 え……?岡田君?!
「ちょ、ちょっと待ってよ。なんでそこに岡田君の名前が出てくるかな」
私の言葉に、美沙はニヤニヤしている。
 なんだろうね、この顔は……
「私にまで隠すんだ? ほ~、知ってるんだからね」
 ギクッ…… 
暑さのせいじゃなく、背中に汗が滲んでくる。
「し、知ってるって、何を?」
「まだ、そんな事言うんだぁ? 夏休みで岡田君に会えないから、元気が無いんだとばっかり思ってたけど私の思い違いかぁ」
「それは……でも、いつから知ってたの?」
美沙にはすっかりお見通しのようで、私はあっさり降参することにした。
「もう、水くさいんだから。言ってくれれば、いくらでも協力したのに、今日子ってばいつまでたっても言ってこないんだもん」
美沙とは小学校からずっと一緒で、一番の友達だ。今まで隠し事をしたことはなかった。
なんでも相談したし、美沙もそうしてくれていた。
「隠すつもりじゃなかったんだけど、なんでかな? なんとなく言いそびれちゃって……ごめんね?」
どうして彼のことを話せなかったのか、自分でも良くわからなかった。
「それだけ本気だって事なんじゃない?」
そう言われて、頬が赤く染まっていくのを感じる。
「そう、なのかな……?」
 今まで人を好きになった事が無いわけじゃない。でも、彼に対する想いは今までとは、何か違っていた。
中学の時に好きになった人は、ただ見ているだけで幸せで、それ以上何かを望む事なんて無かった。
でも今は、岡田君に対しては、違った。
見ているだけじゃ苦しくて、息さえも出来なくなっちゃうんじゃないかって思う。
自分の中から気持ちが溢れ出してしまいそうで……
もっと彼を知りたい!もっと私を知って欲しい!
そんな想いでいっぱいになって、彼を想うだけで涙が出てきそうになる。
なんて、美沙に言ったら「おおげさだな」って笑うかな?
「でも、いきなり花火に誘うなんて無理だよぉ……あんまり話した事も無いのに」
 確かに、岡田君と一緒に花火が出来たらすっごい嬉しいけど、私から誘うなんて死んでも出来ない。
 サバサバした性格の美沙は、男の子達とも仲がいいから、抵抗ないかもしれないけど……
「それなら大丈夫! 私にいい案があるんだよね」
「いい案? なになに?」
美沙はなんだかとっても楽しそうにしている。
「まぁそれは明日のお楽しみ♪」

       ****

「気をつけて行ってらっしゃい。美沙ちゃんのお母さんにもよろしくね」
「いってきまーす」
 ママには美沙と一緒に宿題をするって言ってある。
 ウソつくのはちょっと罪悪感だけど、これも娘の恋のためだと思って、許してねママ!
 玄関を出ると、夏特有の夜の匂いがして、湿気を含んだ空気が身体を通り抜けていく。
愛車の原付に乗って、美沙との待ち合わせ場所へと向かう。
 本当に岡田君、来るのかなぁ……
 どうしよーっ!!
自分でも何がどうしようなのか、わからなかった。
来てくれなかったらどうしよう、でも、来てたらどうしよう……
どっちにしても「どうしよう……」な心境だった。
 親にウソをついて外出するのも、夜に男の子と一緒に遊ぶのもすべてが初めてのことで、
期待や不安や罪悪感が入り混じって、なんかとってもハイテンションになっていた。
 十分ほどで、待ち合わせ場所に到着すると、美沙はもうそこにいた。
「ごめーん。待たせた」
「私も今来たとこだから大丈夫。あ、あと奈々と知美にも声かけといた」
学校の仲良しグループが揃うと知って、心強かった。
「ありがとー!」
さすが美沙、頼りになる。
「だって、女二人で花火じゃ怪しいじゃん?」
「二人って、男の子達は……?」
美沙の言葉に嫌な予感がして、不安になる。
「大丈夫だって。海岸で、落ち合う事になってるから。しかも、偶然会う予定」
「え?」
言葉の意味が理解できずにいる私に、美沙は軽くウィンクしてみせた。
 偶然?落ち合うのに、偶然って……?
「お待たせー」
そこに、奈々と知美も合流し、私は考える暇も無く、そのまま海岸へと向かう事になった。

 海岸が近づくにつれ、私の心臓はうるさい位に高鳴っていた。
 もう、来てたらどうしよう。どんな顔して会えばいいのかわかんないっ!
海岸に着いたが、まだ他に人影はなくてちょっと安心する。
「健太達は、まだ来てないみたいだね。」
美沙がそう言い、落ち合うと言ってたのは彼女の幼馴染だったと知る。
「健太君と待ち合わせだったんだ?」
「うん。大丈夫、健太に岡田君も連れてきてもらうことになってるから。安心しなって」
 そういえば、健太君も岡田君と同じサッカー部だったっけ。
そんな事を今更ながらに思い出した。
「美沙、今日子ー。この辺でやろうか」
奈々達が防波堤の上から声をかけてきた。
「あれ? 待たなくていいの?」
 ここで、待ち合わせ、だよね?
「ん? あぁ大丈夫。言ったじゃん? 健太達とはここで、『偶然』会う事になってるから」
美沙の言葉に、唖然としているのは私だけで、どうやら奈々と知美は知ってたみたいだった。
 さっきの言葉はそういう意味だったのね……
昨日、美沙が楽しそうにしていたのを思い出した。
どうやら、健太君に協力してもらって、岡田君をここに連れてきてもらう事になっているらしい。
「って、まさか健太君に言っちゃったのっ?!」
「まっさか。健太には上手く言ってあるから心配しなくても大丈夫。あ、でも奈々達には言ちゃったけど……?」
美沙が奈々と知美を見る。
 まぁそれは協力してもらう以上は黙っておけないし、どっちにしても私から言うつもりだったから、気にはならなかった。
 さすがに、男の子達にばれるのは勘弁してもらいたいけどね。
「今日子、水くさいよー」
「本当だよ。美沙に聞いてちょっとショックだったな」
奈々と知美は口々に不満を漏らしたが、その顔は笑っていて全然気にしてるようではない。
「ごめんって。美沙にも昨日同じ事言われちゃった」
申し訳なく思いながらも、3人の友情には本当に感謝していた。
きっと、一人で悩んでいたら、こんなチャンスに恵まれる事は無かったと思うから。
そうこうしているうちに、遠くのほうから数人の話し声が聞こえてきた。
「あ、来たんじゃない?」
奈々が小さい声でそう言った。
「偶然会った振りだからねっ!」
美沙がそう言い、私達は知らない振りをしながら花火に火をつける。
「お、花火やってる人いるじゃん」
徐々に近づいてくる話し声に、私は花火どころじゃなくなっていた。
出来る事なら、この場から逃げ出したい気分でいっぱいになる。
「あ、美沙じゃん!」
真っ先に声をかけて来たのは健太君だった。
「偶然だね~ 何してるの?」
「野郎四人で寂しく、この夏の思い出作りに、花火でも……って、美沙達も花火か」
用意した台詞とは思えない位、自然に話している二人を尊敬してしまう。
健太君の後ろに岡田君の姿を見つけて、私は固まってしまった。
「どうせなら皆でやろっか?」
奈々や知美も加わり、自然とそういう流れになっていった。
 ど、どうしよう……
手に持っていた花火が終わると、急に手持ち無沙汰になっちゃって、かなり困る。
「俺達、打ち上げ花火いっぱい持ってきたから、ガンガン上げよう~!」
健太君が、持っていた袋から次々と打ち上げ花火を取り出し、防波堤に並べていく。
(ほら、今日子。ちゃんと岡田君に話しかけるんだよ?お近づきになるチャンスだからね!)
美沙がこっそり、耳打ちしてきた。
 そ、そうだよねっ!美沙たちの好意を無駄にしちゃダメだよね!
とは言うものの、岡田君を横目で見るのが精一杯で、話しかける勇気を出せないでいた。
その時、ピューン!と音が鳴り、夏の夜空に赤い光が瞬いた。
急に鳴ったその音に驚いて、思わず隣の人の服にしがみつく。
「び、びっくりしたぁ……」
ふと視線を上げると、なんと岡田君っ!!
 キャー!!どさくさに紛れて触っちゃったっ!(服だけど……)
引っ張られた事に気が付いて、岡田君がこっちを見る。
瞬間、呼吸も上手く出来なくなった私に、岡田君が不思議そうな視線を向けている。
 な、何か話さなくっちゃ……えっと、えっと……
そうは思うものの、胸がいっぱいで、言葉にならない。
そうこうしているうちに第二弾、第三弾の花火が次々と上がっていき、岡田君の意識もそっちに向いてしまった。
 ダメだな、私……
自分の不甲斐なさに自己嫌悪していると、美沙に肘をつつかれる。
(今日子、あれ)
そう耳打ちされて、美沙の視線を辿ると、岡田君の手に小さい火ぶくれが出来ているのに気が付いた。
 あっ、こんな事もあるかもしれないって、持ってて良かった。絆創膏!
 美沙、感謝~!
いつか必要になったらすぐに渡せるようにと、いつもバックの中に忍ばせていた絆創膏が、ついに役に立つときがきたのだ。
ドキドキしながら取り出してみると、あまりにも長い間狭い場所で出番を待っていたそれは、もうボロボロで、とても彼に渡せるような状態ではなかった。
膨らんだ風船がしぼむみたいに、私の気持ちも一気にしぼんでいき、自分の不甲斐なさに涙が一粒こぼれてしまう。
みんなに不審に思われないように「煙がはいったぁ~!」とごまかすのが精一杯だった。
そんな私の様子に、誰も気が付かないまま時間はどんどん過ぎていった。
「おっし、これラストー!」
最後の花火に火が点けられ、夜空を明るく照らし儚く消えていく。

結局、岡田君とは何の進展もないまま、解散となってしまった。
「なんかごめんね。せっかく美沙達が色々考えてくれたっていうのに……」
帰り道、解散場所まで来て私はそう切り出した。
笑って言うつもりが失敗して、泣き笑いのような表情になってしまった。
「そんな事気にしなくていいんだよ!」
「ありがとね。お近づきにはなれなかったけど、美沙達のおかげでこの夏一番の思い出が出来ちゃった」
今度はしっかり笑顔で言う事が出来た。
そんな私の様子に美沙達にも安堵の表情が浮かぶ。
「それじゃ、ここで。またね!」
美沙達に別れを告げて、原付に乗り込み家路に向かう。
涙が次から次へと込み上げてきて、視界が霞んでよく見えなかったけど、私は構わず走り続けた。
夜風には、微かに秋の気配がして夏の終わりを告げようとしていた。

 
        
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2009年6月21日 (日)

氷の伯爵と桜色の風 ♯16

☆もくじへ☆

「はぁ……」
自室に戻ったアンナは、深いため息と共に、完璧にメイクされたベットに身を投げ出す。
 貴族の娘が、生まれながらに許婚がいるのは、珍しいことじゃないって言うのはわかるけど……
 なんで将来、二人のうちどちらか一人、なんて事になるのよ。
アンナの脳裏に、先ほどの父の台詞が蘇る。
『本来ならば、長兄のジェリーを許婚に、という話しだったんだが……ルークが生まれたばかりのお前に、キスをした…………それに最近、ルークとは親しくしているようだったからね。私の方から、カークベリー伯爵にお願いしたんだよ』
 有り得ないっ! たったそれだけの事で、ルークも婚約者になる資格が出来たから、私に選ばせる事にしたなんて!
 しかも、選ぶどころか、勝手に決められるなんて……
アンナが父から聞いた話しは、理解は出来ても、到底納得出来るものではなかった。
 って、言っても……カークベリー伯爵は、私の事なんてなんとも思ってないんだから、結局意味無いけどね……ルークと婚約させようとしてる位だもの、むしろ迷惑だったんだわ。
 聞かなきゃ良かった、あんな話し……二人のうちどちらか、じゃ無くて、最初からルークが婚約者と決まっていたなら、諦めもついたかもしれないのに。
みるみる、アンナの瞳には涙が溢れてくる。
自分の感情に耐えられず、思わず枕に顔を伏せて、声を押し殺し肩を震わせるアンナ。
 こんな状況になって、自分がどれだけカークベリー伯爵に心惹かれていたか、気が付くなんて……
アンナは、ジェリーに対する、激しい恋慕の情が湧き上がって来るのを押さえ切れなかった。
ただ、次々と溢れ出す涙が、枕を濡らしていく。

「アンナお嬢様。失礼します」
どれ位そうしていたのか、部屋の外からノックと共にリリスの声が聞こえて、アンナは慌てて身体を起こし涙を拭う。
「どうぞ、入って」
ベットから起き上がり、乱れた髪形を整えながらアンナがそう言うと、リリスがスコーンやケーキの乗ったスタンドを、ワゴンに乗せて入ってきた。
「アンナお嬢様、お茶会の続きをしませんか?」
リリスは、目を真っ赤に充血させているアンナの様子には触れずに、笑顔を向けている。
それが彼女なりの気遣いだと知っているアンナは、素直に頷いてテーブルに向かい、椅子に座った。
「今日は、キャットニップのハーブティをご用意致しました。リラックス効果があるそうですよ」
カップに注がれた紅茶から漂う爽やかな香りが、アンナの高ぶった感情を、少しずつ解きほぐしていくようだった。
 リリスにも、心配かけちゃってるね。でも今は、もう少し甘えさせてね。
 彼女の心地良い優しさに浸っていたいから。
ゆっくりと紅茶を飲み、少しずつ気分が落ち着いてきた様子のアンナは、リリスに自分の初恋の話しを語り始めた。
「私ね…………」
――幼い頃の、恋とも言えぬような淡い想い。それは成長した今でも、心に残る大切な思い出で、初恋の少年が、ジェリーかルークのどちらかかもしれないという事。その時のハンカチは、今でもお守りのように大切にしている事――
リリスに聞かせるというよりは、口に出して語る事で、自分の気持ちの整理をつけているかのように見えた。 続く… 

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2009年6月19日 (金)

氷の伯爵と桜色の風 ♯15

☆もくじへ☆

「今、なんて言ったの?! 婚約? 誰と、誰が?!」

「アンナお嬢様、落ち着いて下さい」
レディの仮面も忘れて、取り乱したアンナを、リリスが何とかなだめる。
「信じられないなら、パーシヴァル家に戻ったら、確認してみるといい」
正面に座るアンナを、真っ直ぐ見据えて言い切るジェリーの言葉には、偽りの影は無い。
それでもアンナは、すぐには受け入れる事が出来ない様子だ。
「わかりました。これから帰って、お父様に直接確認します」
もはやアンナの中では、お茶会どころの騒ぎでは無いようで「今日はこれで失礼します」と一言告げると、リリスを連れてその場を後にしたのだった。
「まったく。相変わらず、慌しい娘だ」
アンナの後ろ姿を見送りながらそう言ったジェリーの表情は、言葉とは裏腹にとても穏やかに見えた。

「兄さん、どういうつもりなんですか? 急にあんな突拍子も無い事を言い出すなんて……きっと、アンナは本気にしましたよ?」
アンナが慌しく去った後に、最初に口を開いたのはルークだった。
「本気にしてもらわなければ、困る。何せカンター男爵からの、直々の申し出だからな」
ジェリーは、傍に控えていた若いメイドに、熱い紅茶を頼みながら、何気ない日常会話の様にそう言った。
「な……」
兄の言葉に唖然として、二の句を継げないでいるルークに、ジェリーは更に続ける。
「俺達兄弟のどちらかが、アンナと結婚する事になっているのは、お前も承知してる事だろ。今更、何を驚く必要があるんだ?」
「ですが……本当にそれでいいのですか? 兄さんがアンナを……」
「まあ、アンナは知らなかったみたいだがな。ルーク、話しはここまでだ」
ルークの言葉を遮り、有無を言わせぬ口調でそう言ったジェリーに、これ以上何を言っても無駄だと思ったのか、ルークが深いため息をつく。
「分かりました。まずは、アンナの意思を確認してから、また話しをしましょう」
ルークは、それだけ言うと、温厚な彼にしては珍しく、憤りを隠せない様子で立ち上がり、去っていった。
 そこへ、先ほどの若いメイドが、淹れたての紅茶が入ったティーポットを手にやってきた。
カップに新しく紅茶が注がれると、芳しい香りが辺りに漂ってくる。
「ありがとう」
美しい主人に、普段ならあり得ないほどの極上の笑顔でお礼を言われた若いメイドは、耳まで真っ赤になりながら、慌ててお辞儀をして下がっていった。
メイドが下がり、一人で紅茶を楽しむジェリーの姿は、まるで一枚の絵のようにさまになっている。
「これで、いいんだ……」
そう自分に言い聞かせるように呟いた彼の胸中を知る者は誰もいなかった。

 パーシヴァル家に到着したアンナが、真っ先に向かったのは父、ヘンリーの所だ。
「お父様はどこ?」
 アンナが、迎えに出てきた執事のギルバートに尋ねると「書斎にいらっしゃいます」と彼は、相変わらずの無表情でそう言った。
ギルバートに礼を言い、邪魔なドレスの裾をまくり上げて書斎へと急ぐアンナには、使用人達が驚愕の眼差しで見ている事に気が付く余裕も無かった。
アンナの後ろから、リリスが慌てて付いていくが、さすがにアンナのように屋敷の中で走るわけにもいかず、他の使用人達に同情の眼差しを向けられる事となった。
「あのお嬢様の専属は気苦労が多そうだね……」
どこからか聞こえたそんな声に、今日ばかりは反論する事も無く、ただ俯いてアンナの後を追うリリスだった。
 書斎に着いたアンナは、ドアの前でドレスの裾から手を離しノックする。
「どうぞ」
部屋の中に招かれ、座るように促されるが、アンナは落ち着いて座って話す気分ではなかった。
「お父様、カークベリー伯爵から、婚約の話し聞きました。一体どういう事なんですか?」
回りくどい言い方が嫌いなアンナが一気にそう言うと、ヘンリーは、あまりに真っ直ぐな質問に少々驚いた様子だったが、改めて目の前のソファに座るように促した。
「すべて話すよ。アンナ、まずは落ち着きなさい」
アンナとは対照的に、ゆったりと微笑む父の姿に、幾分落ち着きを取り戻したアンナは、父に言われた通りにソファに身を沈めた。
「そうだな。もっと早くに、私の口から伝えるべきだった。アンナ、今回の婚約の話は、お前が生まれた時から決まっていた事なんだよ」
アンナは、ヘンリーが言った事の意味が分からずに、唖然としている。
そんな娘の様子に、ヘンリーはゆっくりと言葉を続ける。
「前カークベリー伯爵が、お前が生まれた時に一目で気に入ってね」
ヘンリーは、当時の事を懐かしそうに目を細めて語りだした。続く

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2009年6月15日 (月)

氷の伯爵と桜色の風 ♯14

☆もくじへ☆

 ルークが、パーシヴァル家に家庭教師として訪れるようになってから、1ヶ月が経とうとしていた。
歩き方から始まり、食事マナーや会話術に至るまで、徹底的に指導を受けたアンナは、屋敷に訪れた当初からは想像も出来ないほどの、身のこなしが出来るようになっていた。

 今日は、アンナの今までの努力を労う為に、ルークがお茶会を催してくれる事になっている。
アンナは、カークランド家に向かう馬車の中で、久々に会う事になるカークベリー伯爵に想いを馳せていた。
 なんだか、ドキドキするな。
 あの晩餐会の夜以来、会ってないんだもんね。
 私の事なんて忘れちゃったかな……?
「あの……私まで御一緒させて頂いて、本当に良かったのですか?」
そんな事を考えていると、隣に座っているリリスが、緊張した様子でアンナに尋ねてきた。
「もちろんよ! リリスが、一緒にいてくれるだけで、どれだけ心強いか」
アンナは大袈裟ではなく、そう言った。
慣れない環境に戸惑うアンナに、リリスは本当に良くしてくれている。
アンナにとってリリスは、ただの専属メイドではなく、パーシヴァル家で唯一、気取らずに話せる大切な友人だった。
「ありがとうございます。そう言って頂けると、嬉しいです」
安心した様子のリリスに、笑顔を向けながらも、実はアンナの心は別の事でいっぱいになっていた。
あの、晩餐会の夜以来、レッスンの忙しさで誤魔化して、考えないようにしてきた事……
カークベリー伯爵は「あの少年」なのかどうか、何度もルークに尋ねてみようと思いながらも、聞きそびれてしまっていた。
いや、本当はアンナ自身も無意識に、答えを知る事に怯えていたのかもしれない。
もしも、あの少年がカークベリー伯爵だったら、自分はどうしたいのか、もし違ったらどうするつもりなのか。
アンナ自身も、答えを見つけられないでいるのだから……

 カークランド家に到着すると、玄関ホールまでルークが迎えに出てきてくれていた。
「本日は、お招き頂きまして、ありがとうございます」
ルークの姿を見つけ、ドレスの裾をふわりと掴み、優雅に挨拶をするアンナとリリス。
その姿を見ているルークは、満足気に微笑んでいる。
「ようこそ、レディ。今日は楽しんで下さいね」
そう言ったルークにエスコートされながら、長い廊下を歩いていくと、その壁に何枚もの肖像画が飾られていた。
歴代のカークベリー当主と、その夫人のものであろう。
アンナは、その中の一枚に目を奪われた。
 この人……私と同じ髪の色をしてる……
ふと幼い頃の記憶が蘇ってくる。
『僕の母さまが、同じ色をしていたんだ』
 あの時の少年の言葉だ。
突然立ち止まり、一枚の絵に見入っているアンナに気が付いたルークが、アンナの元へと歩み寄る。
「前カークベリー伯爵夫人、僕ら兄弟の母ですよ」
ルークは目を細め、少し寂しそうに言った。
その言葉の意味を、アンナが理解するまで、少し時間がかかった。
 ルークのお母様……?
 私の叔母様に当たるのよね?
 て、事はカークベリー伯爵のお母様でもあって……
そこで初めてアンナは気が付いた。
あの少年が、カークベリー伯爵なのか分からない今、可能性はルークにもあるという事に。
思えば、なぜ今までそんな単純な事に、思い至らなかったのか不思議な位だった。
ルークも、兄であるカークベリー伯爵と同じ髪と瞳なのだから……
 私って、思い込むと、それしか考えられなくなるのは、悪い癖だな。
 今まで気が付かなかったのは、私の願望だったのかもね。
アンナは自嘲気味にそう思った。
「アンナ? どうかしましたか?」
絵を見つめたまま、動かないアンナにルークが声をかける。
「え? あ、なんでもないの。すごく素敵な方で、少し見惚れていただけよ」
なんとかその場を取り繕うために言ったアンナの言葉を、ルークは疑った様子も無く「それじゃ、いきましょうか」と再び歩き出した。
 その先にある突き当たりの扉から、内庭へと出ることが出来るようになっていた。
内庭にある、緑のアーチを潜り抜けると、少しひらけたその場所には、美しい花々が咲き誇り、辺りに芳醇な香りを漂わせている。
その中でも、一番目を奪われたのが、まるでピンクのレースを身にまとったように、儚げで可憐な花を咲かせている一本の大樹の存在だった。
今まで見た事も無い光景に、アンナとリリスはおとぎの国に、迷い込んでしまったかのような錯覚に陥っていた。
「ここは、屋敷の中で、僕が一番気に入っている場所なんですよ」
ルークが、目の前の白いテーブルセットの椅子を引き、二人を席まで案内する。
「あのお花、初めて見たけど、とっても素敵ね」
アンナは、風が吹くたび乱れ飛ぶ花弁が、春に舞い散る雪のようで美しいと思った。
「ああ。あれは父が生前に、亡くなった母を想って植えた『チェリーブロッサム』という種類で、この時期の一週間ほどしか花を咲かせず、とても儚い感じですが、僕は大好きな花ですよ。父は、母の髪の色と似た花を咲かせるあの木を、本当に大切にしていたものでした」
ルークは少し影を落とした瞳でそう語ってくれた。
「あ、ごめんなさい。辛い事を思い出させてしまって……」
「いや、僕の方こそ、気を使わせてしまいましたね。さて、そろそろメイド達が、サンドウィッチを運んでくる頃かな」
わざと、陽気にそう言ったルークの瞳に、もう陰りは無かった。

「悪い、遅くなった。レディを待たせるとは、俺とした事が、失態だったな」
アンナが、背後から聞こえたバリトンに振り向くと、そこには以前会った時と変わらない、圧倒されるような美貌の持ち主が立っていた。
「いや、僕達も今来たところですよ。兄さん」
心の準備も無いままに、突然現れた彼に、激しく動揺し、一瞬挨拶をする事さえも忘れてしまっていたアンナに、リリスが小声で「お嬢様、ご挨拶っ」と言ったところで、アンナはやっと我に返った。
「本日は、お招きいただきまして、ありがとうございます」
アンナは、なんとか気を取り直し、先ほどルークにしたように優雅に挨拶をこなすが、内心は焦りでいっぱいだった。
「今日は、髪の毛を下ろしているんだな。そっちの方が似合ってる。まるで、あのチェリーブロッサムの妖精みたいだ」
ジェリーは挨拶をする代わりに、風に揺られてなびくアンナの髪の毛を見てそう言った。
晩餐会の夜に会った彼と、同一人物とは思えないほど、砕けた口調のジェリーに、驚きを隠せずにいるアンナ。
しかし、その思いをあからさまに表に出す事が無かったのは、今までルークから受けてきたレッスンの成果だった。
表面上は笑顔を保ちながらも、実はアンナの心は乱れていた。
 ちょ……この変貌は何っ?!
 なんだか、とっても恥ずかしい事を、サラッと言った気がするのは気のせい?!
 彼、本当にあのカークベリー伯爵よね?
褒められる事に慣れていないアンナは、赤面している様子を心なしか楽しそうに見つめるジェリーに、一瞬疑いの眼差しを向けかけたものの、これほどまでに他人を圧倒するオーラと存在感を持つ人物が、この世に2人もいるとは思えなかった。
「兄さん、アンナが驚いているじゃないですか。いくら自宅とはいえ、前回会ったのは、晩餐会の時だったんでしょう? あまり、ギャップが有りすぎるのもどうかと思いますが……」
見かねたルークが、兄に進言しているところを見ると、こちらが普段のジェリーの姿なのだと分かる。
「いいえ、カークベリー伯爵がこんなに気さくな方で、嬉しいですわ。従兄弟同士ですもの、堅苦しい事が無いお付き合いが出来るならば、そんなに嬉しい事は無いわ」
 ちょっと、苦しかったかな……?
動揺した心を悟られないように、必死でレディの仮面を被り続けるアンナ。
「ルークは家庭教師に向いているようだな。随分しっかりとしたレディになったじゃないか」
あまり感情がこもっている様には、感じられない言い方だった。
「兄さん、アンナに失礼ですよ」
兄の非礼を詫びるように、申し訳なさそうな顔でアンナを見るルーク。
「いいのよ、ルーク。ありがとう」
そんなルークとアンナのやり取りを見ていたジェリーのダークブルーの瞳が、刹那揺らめいた事には誰も気が付かなかった。
「まあ俺の本性なんて、お前とアンナの婚約が決まればいつかは分かる事だし、いつまでも社交界用の仮面を着けてるわけにもいかないだろ?」
 ……!!
「はっ!?」
ジェリーの爆弾発言に、いつも温厚で冷静なルークが珍しく大きな声を出す。
「今、なんて言ったの?! 婚約? 誰と、誰が?!」
アンナも、流石に今回ばかりは、必死にレッスンしてきた甲斐も無く、思わず叫ぶように言ってしまったのだった。続く

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